パリへ | サスライノヒビ

パリへ

プロバンス地方からパリへ向かった。

飛行場へ行くために。


ただ、フライトよりもだいぶ早い時間に
パリへ着く。


フライトまでの間に
最後のパリを楽しむわけだけど
どこへ行くかはもう決まっていた。


それは、
今回のフランスで
私がやりたいと思っていたことのひとつ。


「10年前にはじめて一人で訪れたカフェに行くこと」
だった。


10年前はじめての海外旅行で
3回だけ友達と別行動をしている。


なんとなく見つけた小劇場に芝居を見に行った時と
運悪く喘息が出て
病院に行った時の病室。
あと一回は
大学の先輩にあたる人に会いに行った時だ。


大学の教授に
フランスに旅行へ行くことがばれた時に
同じ学科の卒業生が
フランスに留学しているから
会いに行きなさい。
と言われた。


それで会いに行ったカフェが
今日訪れたカフェというわけだ。


名前も忘れてしまったし
どんな感じだったかも忘れた。


憶えていたのは
凱旋門近くの
Avenue Carnot
というところにあるカフェ。
ということだけだ。


あの時のことを思い出した時に
すごく胸がドキドキした。


一人でパリの街を歩いて
カフェに入り
「アン ショコラ シルブプレ」
と言った場所だ。


まだ、一人で牛丼屋さんに入ったことも
漫画喫茶に入ったことも
レストランに入ったこともない
純な私がそこにいたはずだ。


どうしてもそこに行きたいと思っていた。


やっぱり理由はなんとなくだ。

あのときのドキドキを思い出した時に
ものすごく
ドキドキしたからかもしれない。


今回念願かなってたどり着いた時
そこが本当に10年前に訪れた場所かどうか
わからなかった。


けれどそんなことはどうでもよくて
とりあえず入って
もう一度言ってみた。


「アン ショコラ シルブプレ」
と。


甘過ぎないココアが出てきて
ベタに写真なんかを撮ってみて
あっという間に飲み終えた。


普通のココアだ。


あの頃から
私は変わったかもしれない。
変わっていないかもしれない。


けれど、いつでもドキドキしていたい、
という気持ちは
今でも変わらないのだ。


これで私の今回のフランスは
終わりを迎える。


いい終わりだ。